硝子体(しょうしたい)手術とは
網膜硝子体手術(もうまくしょうしたいしゅじゅつ)とは、主に糖尿病網膜症、網膜剥離、黄斑上膜や黄斑円孔、網膜静脈閉塞症による黄斑浮腫、硝子体出血といった網膜や網膜の中心にある黄斑部の疾患を治療するために行われる手術です。
硝子体とは、眼球内部を満たしている透明な卵の白身状の組織です。手術では、白目の部分に小さな穴を4ヶ所開けて、そこから挿入した専用器具で硝子体を必要なだけ切除して、網膜面に達し、超微細な手術を行います。
当院では、横浜市立大学門之園一明教授の協力のもと、日帰りで最高水準の硝子体切除手術を行っております。
硝子体手術が必要な網膜や黄斑部の疾患
硝子体手術が必要な疾患は多岐にわたりますが、そのほとんどは網膜や黄斑部に発生する疾患です。その中でも代表的な疾患は以下の通りです。
糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は、糖尿病腎症・糖尿病神経症とともに、糖尿病の3大合併症といわれ、緑内障についで日本人の失明原因の第2位です。
糖尿病によって網膜の血管が障害され、網膜出血や黄斑部の浮腫を起こし、放置すると最終的には網膜剥離になって失明します。糖尿病発症から数年以上経ってから網膜症が出現することが多いのですが、かなり進行するまで自覚症状がありません。網膜の血管がつまって、虚血状態が進行し、血管内皮細胞成長因子(VEGF)が放出されると、網膜に新生血管が生じてきます。この新生血管からは容易に出血が繰り返され、次第に網膜表面に増殖膜が形成されてゆきます。大量に出血するとほとんど見えなくなるので硝子体手術を行って出血を除去したり、増殖膜を取り除く必要があります。
網膜剥離
網膜剥離は、眼球の内壁から網膜が剥がれてしまうことをいいます。加齢や外傷によって網膜に孔(あな)ができたり、増殖性糖尿病網膜症による網膜への牽引などが原因です。
網膜に穴が開くと、視界にゴミのようなものが漂って見える飛蚊症が出現したり、この前兆現象として眼の内部で閃光が走ったりすることがあります。このような現象がある時は、眼科専門医で眼底検査を受けて下さい。網膜剥離の進行とともに視野欠損してゆき放置すると失明します。
初期段階であれば、網膜の孔(裂孔)の周りをレーザーで焼き固める(レーザー光凝固)によって治癒する場合もあります。
黄斑上膜(黄斑前膜)
黄斑部は、網膜の中心にあり、視覚にとって最も重要な部位です。
眼球内は硝子体(しょうしたい)という卵白状のゲルで満たされています。このゲルが加齢によって変性し、黄斑表面に膜状に残るのが黄斑上膜です。膜越しに見ることになるので視力が落ち、膜が収縮して皺になると物が歪んで見えます。
原因は加齢のほか、ぶどう膜炎という眼内の炎症や、裂孔・円孔という網膜の穴などが挙げられます。裂孔を放置すると網膜剥離の原因となるので要注意です。黄斑変性と異なり黄斑上膜に効く薬はなく、手術をして網膜表面の膜を剥がします。進行すると黄斑の細胞自体が傷んでしまうので、比較的早期に手術したほうが良い結果を得られます。
黄斑円孔
黄斑部網膜表面の硝子体膜が収縮し、黄斑部に接線方向の牽引がかかることにより、黄斑部に孔(あな)があきます。
網膜静脈閉塞症
動脈硬化が進行し、網膜内で動脈が静脈を圧迫し閉塞させる疾患を網膜静脈閉塞症といいます。閉塞の程度や場所により症状は様々ですが、黄斑(網膜の中心)近くに起きると急激に視力が低下します。黄斑から離れている場合は自覚症状に乏しいこともありますが、網膜硝子体出血、視野欠損、黄斑浮腫による視力低下の原因となります。高齢者、糖尿病、高血圧の方に多いのですが、若くてもピルを飲んでいる女性は要注意です。
自然によくなる場合もありますが、黄斑部浮腫が生じた場合は抗VEGF剤の硝子体注射が行われるときがあります。当院では、抗VEGF剤注射を行っても再発するケースは漫然と抗VEGF注射を繰り返すことはせず、比較的早期に硝子体手術を行っています。また、網膜中心静脈閉塞症に対しては、特注の超極細針を直接網膜中心静脈に刺入し、血管内を灌流する手術を行っています。
硝子体出血
眼球内の血管から生じた出血が硝子体に入り込んでたまった状態を硝子体出血といいます。原因はさまざまですが、糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症、網膜裂孔などが原因となります。
症状は出血の量や位置によって異なりますが、視界の中にゴミや虫のようなものが見えたり、視界中に墨(すみ)を流したように見えたりすることもあります。出血が少量の場合は、自然吸収されることもあります。大量の出血の場合は、見えなくなるので硝子体手術を行って出血を除去、原因疾患を治療します。
手術後の日常生活について
手術後、ご自宅で過ごされる日常生活においては、以下のように若干の配慮や制限が必要になります。
- 手術後2週間は専用の保護メガネを着用してください。
- 処方された点眼薬や内服薬は、決められた量と回数をしっかり守って服用してください。
- 手術後1週間は洗顔と洗髪をお控えください。ただし洗顔は固く絞った濡れたタオルなどで軽く拭く程度は問題ありません。(眼に水が入らないよう注意してください) また、水を使用しないドライシャンプーの洗髪も可能です。また、洗髪と洗顔は顔が濡れないよう美容院などで行うことは問題ありません。
- 手術後、翌日から湯船に浸かっていただくことは可能ですが、首から上を濡らさないよう気を付けてください。
- 仕事や運転、スポーツ、旅行などの再開時期については医師にご相談ください。
さらに一部の疾患(網膜剥離、黄斑円孔など)において手術で眼球内にガスを注入した方については、以下のように特別な制限が加わります。
手術後、1~3日間程度は起きている間も就寝中もできるだけうつぶせ、またはうつむきの姿勢を保ちながら、安静に過ごしてください。これはガスの浮力を利用して網膜を復位(元の位置に戻すこと)させるためです。
手術後、眼球内のガスは徐々に吸収されますが、完全に吸収されるまでは高所への移動をお控えください。(飛行機の利用、登山など、標高の高い場所への移動)。高所では残っているガスが膨張し眼圧が上昇するため、網膜動脈閉塞症を引き起こす可能性があります。
なお、上記事項は症例によって異なる場合がございますので、不明な点はご質問ください。また、手術後の経過に応じて、医師より上記以外のご注意を支持させていただく場合があります。
手術後の通院スケジュールについて
手術後、まずは手術の翌日と3日後に受診して頂き、以降は1週間後、2週間後、1ヶ月後、2ヶ月後と経過観察していきます。なお、期間や間隔はご病状によって異なる場合があります。